景に還る
景に還る
景に還る

景に還る (2019)

娘が笑うと私も笑う。私が笑うと娘も笑う。
彼女と出会うまでの私はことあるごとに不安にかられ、心や精神といった目に見えない「わたし」を包む膜のようなものがあるとするならば、
それは閉ざされ風通しの悪いものだった。
ある日、不安の中にいた私は鏡という穴を見つける。その穴から時々出て行き膜の外から「わたし」を見つめるのだ。
ちょうど鏡像段階(精神分析学者・J.ラカンが提唱)にある娘が鏡の中の自分を見つけゆっくりゆっくりと自己を認識していくように。
この作品は、乳幼児が見上げられる程の高さに無数の小さな鏡を吊るし、
中心の余白には天に大きな鏡を配置した空間インスタレーションです。
そこには個人的記憶に限らず、生命の記憶や体験の蓄積により形成された「わたし」の膜が映し出されます。
はっきりと統一された塊として現れる像や、分割され粒となり像が全体に溶けていくような体験は膜の変容性を感じさせ、
乳児の成長過程だけでなく私たちの記憶の中に在る霊性に還る行為でもあると感じます。
「わたし」と今ここにある景が、愛でるべき記憶として鑑賞者の内へと還っていくことを願っています。